昼下がりの山手線。サラリーマンや学生をはじめ、多くの人が電車内におり、空席を見つけるのが難しいような混雑具合でした。
そんな中席に座っていた僕。すると恵比寿から、小さな赤ん坊を抱えた女性が電車に乗ってきて、たまたま僕の目の前に立ちました。
「大変そうだな」と、その人に席を譲ろうと席を立つ僕。そのままスッと扉の方に行こうとしたのですが、ふと背後に違和感を感じることに。気になり自分が立った席を見てみると、なんと赤ん坊を抱いた女性の隣に立っていたおばさんが、普通に僕の席に座ろうとしていたのです。
まさかこんなことになるとは思っておらず、おばさんの図々しさに嫌悪感を感じました。「よし、言おう」あなたの為じゃないと声を掛けようとおばさんの方に身体を向けると、再び予想だにしない展開を迎えるのです。
赤ん坊を抱いていた女性に譲った席に、図々しくも割り込んで席につく非常識なおばさん。あなたの為じゃないと声を掛けようとすると、その隣に座っていた、元々おばさんの前に居たサラリーマンの男性が、スッと席を立ち上がったのです。
そして赤ん坊を抱いていた女性に向かって、
「どうぞ」
と、自分が座っていた席に座る様促すのでした。
おばさんを立たせて赤ん坊を抱いている女性を座らせようという発想しかなかった僕。席を立ち上がった男性の気遣いに安堵していると、僕に向けても会釈をしながらぺこりと一例するのでした。
女性が座れた。一応、本来の目的は達成された状態。じゃあいいかとおばさんに声を掛ける気がスッと引いた、その時でした。
席を立ち上がった男性が、席を割り込んで座ったおばさんに一言、
「あなた以外にも席を必要としている人がいます」「人の善意につけ込むのはよくないですよ」
と、近くにいた僕に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、おばさんに話しかけたのです。そしてそのまま扉付近まで移動していったのでした。
僕がそのおばさんに言いたかったことを、そのまま伝えてくれたあのサラリーマン。後になって思ったのですが、もしかしたら、あの人は僕がおばさんに苛立ち、何かを言おうしているのがわかったのかもしれません。だから僕が声を掛けるのをやめる様先に赤ん坊を抱いた女性に席を譲り、そして僕の代わりにあのおばさんに声をかけてくれたのかな、と。少なからず公共の場で何かをいうのは、よくない注目を浴びてしまいます。あの人は、僕の代わりにその役目を引き受けてくれたのかなって。
正直、あのおばさんには、今でも少し苛立ちを感じます。でも、それ以上に、心温かい人もいるんだなと思うと、この世も捨てたもんじゃないなと思った出来事でした。
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